ある古本屋のオヤジ

先日、ブックオフ某店にセドリに行ったときのこと。
レジに見覚えのあるオヤジが並んでいるのを認めて、思わずハッとなった。

今から10年近く前になるか。武蔵野市境南町に、小さな古書店があった。
あったといっても1年か、長くても2年持たなかったように思う。
そこは駅への通り道ということもあり、20代前半の、何はともあれ古書店巡りという時期は過ぎ去っていたにしろ、定点観測気分でぼくは毎日のように顔を出していた。
オヤジはその店主だったのだ。

開店時、最初の客ということで、何冊か本を貰った。すぐに顔見知りになり、売り物にならないコミックも貰った。
特別な本はあまりなかったけど、近刊が適価で置いてあったので重宝した。今とは違ってリサイクル古書店がどこにでもある時代ではなかったし。
コンビニで雑誌や新聞を買って、駅前のドムドムでお代わり自由のアイスコーヒーを啜りながら読む、なんて朝の過ごし方をしていた時期があったのだが、そこでよくオヤジがハンバーガーをかじっている姿を見かけた。儲かっていないんだろうなと、他人のことは言えないが思ったものだった。

そういえば、その店から100mも離れていない至近に老舗のK書店があり、そこの店主の世間話に付き合ったことがあった。その中で、オヤジが、資源ゴミの日の早朝、捨ててある本を拾い集めているという話題が出てきた。いや、話題じゃないな、まんま陰口だ。
はあ、そうですかと相槌を打ってはいたものの、拾ったものを売る方も褒められたものではないが、堂々の老舗がそれにグズグズ言うのもどうかと思ったものだった。商売人の嫌らしさをみた出来事だった。

それから間もなくだった。件の店が閉まったのは。
店の前に「ご自由にお持ち下さい」と張り紙があり、本が積んであった。既にあらかた持っていかれた後でろくなものがなかったが、日本史事典を2冊、大して欲しくもなかったが、儀式みたいな感じで持ち帰った(去年、結婚したときに捨てた)。

一時の感傷はあったが、いつまでも気にするほど義理も愛情もあったわけではないので、以来ほとんど思い出すことはなかったが…でも、今回の再会は胸に迫るものがあった。

レジで会計を待つオヤジの足下に、大きなカバンが置いてあった。

ああ、まだ頑張ってんだな。そう思った。
店売りをしているのかどうかは知る由もないが、そもそも自分の趣味のために本を買っているのかもしれないが、なんとなくホッとした。
時が流れ、今やぼくも同業者だ。100円で買って(ばかりいるわけじゃないが)何倍かで転がす行為は、捨ててあった本を拾って売るのとさしたる違いはない。

またいつか、どこかの街のどこかの古書店で。

[ 2005/09/06 15:34 ] | TB(0) | CM(0)
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